お話

墜落感覚あるいは死刑への恐怖

落ちていく、落ちていく、落ちて行くーッ! という感覚で、私は声を出そうともがきながら、喉の奥が固着してしまって声を出すことができない。息もすることが難しいまま、恐らくは深い井戸の底目掛けて落ちて行くのだ。 お前は、死刑だ! と、身に覚えのない…

やっと、思い出したとさ!

こんなことがあるなんて信じられないと愕然としました。 たぬき母さんのルリンが、トイレから大きな木の葉を頭に貼り付けたまま、家族みんなが揃っている部屋に現れたのは、もう半年以上前のことでした。 たぬきにとって、木の葉を頭に貼り付けるなどという…

腰の王

曲がった背骨の湾曲が、上からの重力を歪な形で下に伝えて行く。 どんよりとした痛みが、腰骨の上辺に澱み溜まり込んで、腐臭を発している。 この湾曲した空洞の宮殿の玉座に腰の王は鎮座して、腰骨から脳髄に至る神経を睥睨する。 絶望の王よ。あらゆる欲望…

老人と猫

その老人は、毎日、橋のぞばの空き地に来ると、持ってきた餌を皿に移し替えた。 すると、待っていた猫は、喜びに身を震わせながら餌に食らいつくのだった。 この猫に餌を与えるのが、老人の日課だった。 こんなことが数年続いたのだが、老人の体調がだんだん…

モグラ情話、春の宵

出典:https://thevaliens.com/science-with-the-valiens/zoology-with/mammals/f-p/mole-talpidae/ 男と女の世界については、色々と揉め事があって、ずいぶんと面倒なこともあるのがこの世の常。 モグラの世界でも事情は同じで、惚れたモグオがモグミに仕掛…

女性化乳房

トンプよ、お前の飲んでいるクスリのせいだぜ。お前のオッパイが、このごろだんだんと膨らんで来て、乳首の先が痛くなったのは。 お前の、毛の生えたように力強い心臓が、脆くも傷ついて、こんな奇妙な名前のクスリを飲まなければならない羽目に陥ってしまっ…

朝風呂

どうも体が冷たいので、風呂に入ろうと思った。頭の中で蝿がブンブン飛び回っている。この不快さをどうにかしなければ、1日が始まらない。 頭を押さえながら冷たい煎餅布団から這い出した。窓に朝の光が淡く差している。今日も冬晴れの上天気なのだろう。 …

タオに関する妄想

タオがなんだか痩せて来た。癌かもしれない。不安になって、動物病院に連れて行くと、検査ののち、医者がにこやかな顔で、やっぱり癌でしたと教えてくれた。 嘘だろと驚く自分と、やっぱりなあと感傷に耽る自分と、これで自由になれると飛び上がって開放感に…

バカ王

おい、俺のパワハラのせいで部下が自殺したのだ、と書いているツイートがあるようだ。 どこかの雑魚がホラを書いているだけで、腹わたが煮えくりかえるけれど、俺様の沽券にかかわるから放っておく。 ところが、そのツイートをリツイートして拡散したバカが…

リス園

おいおい、また死んじゃうんだぜ。小さなリスは、呆れて叫んでしまった。向こうには、10匹ほどの仲間が、震えながら肩を寄せ合ってうずくまっている。 ここ何日か、仲間が続いて亡くなっているのだ。今日も、3匹の仲間が死んでいた。 何で、こんなことになっ…