苛だたしい一日

暑い午後、ドトールで読みかけの新書を読もうと歩道を歩いていく。

8月もこの時期になると、なんだか悲しくなってくる。暑いことは暑いのだが、吹いてくる風に湿り気がなく、なんとなく大陸の風を連想させる。この風は、タクラマカン砂漠を吹き抜けてきた風なのだ。テンシャン山脈の万年雪からわき起こった風なのだ。

何と、通過する途上の日本海の熱気までも冷やしてくれた。

ドトールのドアを開けると、若い学生風の男が睨みつけた。その前に座って、不乱に本を読んでいる女がちらっと私を見てフンと舌打ちをして、再び、本に目を落とした。

こんなもんだ、世の中は。構うものかと、若い学生の前の席に腰を据えた。

そのうち室内がやたらと冷えてきた。クーラーのきかせすぎ。後ろの席のおっさんが、甲高い声でずっと電話をしている。お前は何なんだ! ここは喫茶店で、みんな本を読んでいるんだよ。怒鳴り付けたい。でも、我慢、我慢! もう歳なんだから、こんなことで怪我でもしたら人生台無しだ。君子危うきに近寄らず。徘徊老人も危うきに近づいてはならない。

奥さんから買い物の一覧が、ラインで送られて来た。肉と魚、豆腐と納豆、紅生姜、玉ねぎはあるとのこと。

もう夕方だ。ドトールを出て、畑に向かう。畑に行くのは1週間ぶりだ。

そばのスーパーで言われた食料を買い込んだ。コーヒーがなくなっていたので一袋買った。担いでいたザックが一杯になった。

畑は、草ぼうぼう。茫々たる原野よ! ここではない何処かへ、おれは立ち去るのだ。

オクラは葉っぱばかりが旺盛に茂っていて、実がほとんどつかない。インゲンも、葉っぱばかりが生い茂っている。

放っておいたら巨大になったナスが、10個ほどもぶら下がっている。次々にヘタを切ってビニール袋に放り込んでいった。ミニトマトも百花繚乱。赤く張り裂けてぶら下がっていた。虫に食われて穴の開いた奴は、どんどん地面に投げ捨てていった。

パンパンになった袋と、食料で一杯になったザックを担いで、夕方の川沿いの道を家に向かって歩いて行く。

結構担げるじゃないか、老いぼれの腰椎骨折よ。

きっと、奥さんは何食わぬ顔で、おれが帰ったことも知らないでいるのだろう。

食卓の上に穫ってきた茄子とミニトマトをぶちまけた。

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