韓国映画『タクシー運転手-約束は海を越えて』

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シネマート新宿で、韓国映画『タクシー運転手』を見て来た。

1980年5月に起こった光州事件を扱った映画だ。

ソウルのタクシー運転手を演じたソン・ガンホは、いつもながら素晴らしい演技を見せてくれた。彼がいなければ、この映画の輝きも半減していただろうと思う。日本には、彼のような俳優はいないし、この映画のような現代史を扱ったエネルギーに満ち溢れた映画も見当たらない。実に残念である。

光州事件が起こった時、私は、29歳であった。だから、この映画に描かれている諸々の事象は、国は違うが私の若かりし時に重なっている。

全斗煥が軍事クーデターを起こし、戒厳令を敷き、韓国における民主化運動を弾圧したことが、この映画を見て記憶の中に蘇ってきた。光州事件は、その象徴として私の中の記憶に残っている。

日本には、安保闘争三里塚闘争があったが、光州事件のような民衆が立ち上がり軍と衝突して、多数の犠牲者を出したというような、その結果として、民主化を勝ち取って行ったというような歴史がない。

おそらく、そのような体験の差が現在の韓国と日本の民主主義の違いになってしまったのだろうと思えてしまう。韓国の民衆は、権力者の不正を糾弾し権力の座から実力を持って引き摺り下ろしてしまうし、司法や検察もそのことに躊躇しない。

ひるがえって日本はというと、すべてが政権の思うがままで、嘘を重ねても私腹を肥やしても、権力を持っている限り、安泰に過ごせるようである。民衆は、安穏の中で惰眠を貪っているがごときだ。

光州事件を描いた映画は、初めて見た。

光州市街を軍の兵士に追いかけられて逃げる学生たち。軍隊と対峙して抗議の声を上げる民衆と学生たちの様子、そして衝突の有様があまりにリアルであったので、かなりの衝撃を受けてしまった。軍の民衆に対する発砲と、私服兵士による暴行と虐殺にも言葉を失ってしまった。

当時、光州事件を報道するニュース映像で、民衆と軍隊が衝突する映像は見たはずなのだが、この映画で感じたほどの衝撃は受けなかった。韓国の民主化運動を気には掛けていたが、おそらくは、私にとって、光州事件対岸の火事であったのだろう。

若いころに取り残したままになっている韓国の民主化運動について、今一度、学び直してみようと思う。

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シネマート新宿の掲示板に貼ってあった「映像新聞」の解説。