迷子のヨークシャーテリア

CoCo壱番屋でカレーを食べた後、奥さんと別れてハンフリー視野検査を受けるため病院へ向かった。

その途中、駅の近くまで来た時、1匹のヨークシャーテリアの仔犬が、ヒョコヒョコと道路を渡って来た。鎖も何もつけていない。

 

道路の向こうに青年が一人、どうしようというふうな様子で立っていた。

 

仔犬は、こちらに渡るかと思うと、方向を変えて反対側にヒョコヒョコと走って行く。

道路には車が何台か、続いて走って来る。道路に出て、仔犬がいることを手を振って指し示した。

車の運転手は、一瞬、怪訝な顔をするのだが、仔犬に気づくと慌ててスピードを落とし、仔犬を避けて徐行しながら通り過ぎて行く。

仔犬はというと、自動車の存在を全く気にかけていない。

 

道路の両側をよく見ると、もう1匹仔犬がいて、心配そうに道路を渡ってウロウロとしている仔犬を見ているのだ。

道路を渡ろうとしている仔犬は、もう1匹の仔犬のところへ行こうとしていたのだ。

歩道で待っている仔犬の方が、なんだか兄さんのようで、落ち着いているように見えた。道を渡っていた仔犬は、兄さん仔犬の後をがむしゃらに追っているようであった。

 

とにかく、このまま放っておくと、そのうち車に轢かれてしまいそうなので、青年と二人で2匹の仔犬を、片側の歩道にどうにか避難させた。

青年が飼い主で、鎖をして散歩をしている途中で逃げられたのかと思っていたが、彼はただ通りかかって、道をうろついている仔犬を目にしただけだった。

 

歩道の上で盛んに尻尾を振っているのだが、どうしていいか分からない。青年が110番して警察に保護してもらいましょうと言って連絡をした。

そのうち、赤ん坊を抱いた若い父親が、一緒に仔犬たちを見守る仲間になってくれた。

3人で仔犬をあやしながら警察が来るのを待っている。

 

仔犬は、ヨークシャーテリアなので、目が大きくて顔も毛がふさふさとしている。ただ、近づいて来た仔犬の背中を撫でてやると、細い背骨が浮き出ていることに気がついた。

これは、ひょっとして餌を与えられておらず、捨てられたのではないのか、と初めて気がついた。

首輪もしていない。

ダンボールか何かに、2匹揃って入れられて捨てられたのを、どうにかしてやっと抜け出して来たのではないのだろうかと、そんな気がした。

しばらくすると、パトカーがやって来て、警官が2人降りて来た。

 

2人の警官は、我々のところに近づいて来ると、各々1匹ずつ捕まえて、パトカーに放り込んでしまった。

中の1人は、私の目の前で兄さん仔犬の首根っこを掴んでそのまま引き上げようとしたものだから、仔犬が苦しくてもがく。これではダメだと思ったのか、首を掴むのはやめて、抱え直すとパトカーに連れて行ってしまった。

 

この時になって、急に心配になって来た。

これは、仔犬たちは保護されたのではなく、このまま保健所に連れて行かれて、そこに収容されてしまうに違いない。

恐らく1週間収容されて、引き取り手が現れない場合は、むごい話だが薬殺されてしまう。それが、飼い主の見つからない犬や猫に対して取られるこの国の行政の対処の仕方なのだ。

 

今日で仔犬たちが保護されてから4日目になる。

私の想像はいたたまれないほど大きくなり、仔犬たちのことが気になってしょうがない。

せっかく抜け出して、どうにか生きることが出来たのに、収容所で殺されることになってしまうのだ。そのことに私は、結果として、積極的に関わってしまったことになる。

仔犬たちを見殺しにしていいのか。

このままでは、私の神経が参ってしまいそうなので、意を決して駅前の交番を訪れた。

 

経過を話して、仔犬たちがどうなったのか尋ねると、若い警官が丁寧に答えてくれた。

あの後、この交番に保護されていたのだが、直ぐに飼い主さんが現れて、引き取って行ったというのだ。

 

なんと、保健所ではなかったのだ。ああ、よかった!

とりあえずは、あの2匹の仔犬たちは死ななくて済んだのだ。

私は、今、緊張から解き放たれた状態でいる。

ただ、交番の警官の話をそのまま素直に信じていいものなのだろうか。大丈夫なんだよね?