蟻が湧いた
1週間ほど前、部屋に蟻が湧いた。
小さな蟻だ。こちょこちょと大量の蟻が部屋の畳の上を這いずり回っている。
部屋にはピアノが置いてあって、いつも奥さんが練習をしている。
その奥さんが血相を変えて、わたしの元へ走って来た。
どうにかして! 蟻が私の方にやって来る!
ベランダに出てみる。ベランダの下の地面に穴があって、そこから登って来ているようなのだが、詳しくは分からない。
とりあえず、蟻を駆除する殺虫剤を買いにカインズホームに出掛けることにした。
庭の蟻を駆除する薬はあるのだが、意外や部屋の中に湧いた蟻を駆除する薬はなかなか見つからない。
やっと庭にも部屋の中にも効く蟻駆除剤を購入して、帰宅すると部屋の角や窓のそばに置いてみた。
しばらく見ていたが、何の変化も起こらない。蟻たちは、モサモサ、こちょこちょ、サッサッサッと畳の上を這いずり回っていて、一向にくたばる様子がない。
この野郎と畳の上を這いずり回る蟻たちを、手のひらで押しつぶしていった。その死骸数知れず。蟻の大量虐殺。私は狂気の大量虐殺者ということになってしまった。死骸は掃除機で吸い上げた。
少しは蟻の数も減ったので、奥さんには勘弁してもらい、しばらく様子を見ることにする。
部屋の押入れが猫の安息の場所になっているので、猫のタオは入りたくて仕方がない。しかし、蟻の殺虫剤を舐めでもしたら、タオが毒に当たる可能性もあるので、戸を締め切って中に入れないことにした。
タオは、部屋の戸の前で、じっと待っている。
何日か経つと、徐々に蟻の数は減っていったのだが、急激にいなくなるということにはならなかった。何となく数匹の蟻が現れて、畳の上や廊下を動き回っている。中には、隣の部屋にまで遠征してくるものも現れた。
これは、いなくなるということなどないのではないかと、少しばかり不安になった。
奥さんは、蟻が少なくなった部屋の中でピアノを弾き続けている。
このところ、蟻の姿が見えなくなった。薬が効いたおかげで、どうにか蟻退治が完成したのかも知れない。
ただ、まだ部屋の戸は締め切ったままである。