墜落感覚あるいは死刑への恐怖

落ちていく、落ちていく、落ちて行くーッ!

という感覚で、私は声を出そうともがきながら、喉の奥が固着してしまって声を出すことができない。息もすることが難しいまま、恐らくは深い井戸の底目掛けて落ちて行くのだ。

お前は、死刑だ! と、身に覚えのない犯罪で宣告を受け、泣いて喚いて身の無実を証明しようとしたのだが、何と国選弁護人までが、せせら笑って、仕方ありませんな、という顔をして、必死で訴えている私を見ているのだ。その目をよくよく覗きこむと、目は死んだように冷たく残酷な光が漂っていた。

一体、私は何の罪で死刑にならなければならないのだろう?

考えてみれば、生まれてからずっと死刑になることに怯えていた。

この原因が、未だに分からない。幼い私の精神形成にどのような禍々しい事象が入り込んだというのだろう! 

何のことはない。ちょっとしたことで人は死んでしまう。私が、大好きな美代ちゃんにゴムチュウで狙いを定めて、小石を解き放ったのは僅か3年生の9歳のことだった。

小石は空中を突き抜けて飛び続け、美代ちゃんの眉間に見事に命中してしまったのだ。

それが原因で美代ちゃんは、生死の境をさまようことになってしまった。

お前のせいだぜ。お前がゴムチュウなんかを使おうという邪な気持ちを抱いたのが、そもそもの原因なのだ。

どれほど人間というのは、自分でも気づかずに他者を傷つけ、そして殺していることか!

お前は、それだけでも有罪なのだ。

法廷の高座に立ち並んでふんぞり返っていた裁判官たちが、厳しい声でせせら笑いながらのたもうた。

ははーっ、私が悪うございました。どうぞお許し下さいませ。

ダメだ、お前は死刑!

何と簡単に死刑宣告なんか言い渡されるのだなあ。