結城市へ
日曜日、妻に誘われて結城市の市民文化センターへ「茨城ダルク26周年フォーラム」に参加するために出かけた。
茨城ダルクには長い間息子の一人がお世話になっていて、今は、別な施設のスタッフとして働いている。
息子は、薬物依存症のせいで10代の終わりから、ダルクを出たり入ったりヤクザ組織にも出たり入ったりして来た。今はそれなりに落ち着いて、クリーンな状態を何年も続けている。もう、いい歳になってしまった。
異常な暑さの中、結城駅にお降り立ち、会場の市民文化センターに汗をぬぐいながら歩いて行く。
センターのホールに入るとガタイのいい半ズボンのオッサンが近づいてきて声をかけてきた。
初めは、誰だかよくわからない。向こうも街で出会っても親父だと気がつかないと言っていたが、私の方はこうして直に目の前に見てもなかなか息子の顔に結びつかない。
息子の話だと、会うのは18年ぶりだそうだ。18年経てば、ずぶんと変わってしまうものだ。
仕方がない。事情を話せば長い話になるし、上手くまとめることもできない。
ともかく私の方は、息子と会うことができるまでに18年の年月が必要だったというだけの話だ。
フォーラムでは入所者の人たちでエイサーの演技があったり、
とても素晴らしい和太鼓の演奏があったりしたのだが、『まっ白の闇』という映画の先行上映があったので、その紹介をしておこうと思う。
薬物依存症の弟を救おうとする兄とその家族の再生の物語で、監督の実話を基にしている。
主演は百瀬朔という若手俳優で、何となく中居正広に似ている。兄役は、小澤亮太というこれも若い俳優である。二人とも、どこかで見たことがあるような俳優なのだが、あまりよく知らない。しかし、両人ともに映画の役中人物のリアリティーを表現することのできる実力派であることは確かだ。
監督は内谷正文という方で彼が現実には映画の中の兄に当たる。
友情出演といえばいいのだろうか、村田雄浩が茨城ダルクの代表である岩井喜代仁さんの役を、映画の中では岩谷という名前で好演している。
わざわざこのフォーラムに合わせてやって来て、舞台で挨拶をしてくれた。
実際の薬物依存症は映画のように上手く回復してはいかない。何度も何度も同じようなことを繰り返して、家族に途方もない苦しみを与え続ける。
映画は、ハッピーエンドで締めくくられるが、家族に薬物依存症を抱えたことのある私のような者にとっては、何だか綺麗事で締めくくっているような感じがしてしまう。
ただ、もっと深く切り込んで行けば絶望しかないことになってしまうかもしれない。そういうことになれば、世間は薬物依存症ということに目を背けることになってしまう。
ともかくも薬物依存症について正面から向き合って描かれた最初の映画だろう。
まとまらないことを書いてしまったが、映画『まっ白の闇』の公式サイトを紹介しておくので、ぜひご覧あれ!
薬物中毒の恐ろしさと、薬物からの回復の場としてのダルクというものがよく分かるはずだ。
劇場公開は、まだ先になるようだ。
映画を観おわって、販売コーナーで特製のTシャツとサイン入りのポスターを買った。フォーラムが終了後、ホールにいた息子に別れを告げて会場を後にした。
今度はいつ会えることになるのだろう。
また18年も会わないということはないだろうが。
以前よりは、わだかまりは小さくなっているように感じられる。
夕方なのに依然として暑い日差しが照りつけている道を、妻と二人で結城駅まで歩いて行った。