腰の王

曲がった背骨の湾曲が、上からの重力を歪な形で下に伝えて行く。

どんよりとした痛みが、腰骨の上辺に澱み溜まり込んで、腐臭を発している。

この湾曲した空洞の宮殿の玉座に腰の王は鎮座して、腰骨から脳髄に至る神経を睥睨する。

絶望の王よ。あらゆる欲望を断ち切って倦むことのない存在よ。

生きる希望を捨て去り、可能性のすべてを奪い取って平然としている。

この窒息した世界から抜け出して、少しでも息付ける場所を求めて、俺は立ち上がろうとしたのだが、ドアは牢獄のように閂で閉ざされたまま、外の世界さえ伺うことが叶わなかった。

どこかに抜け道はないかと、腰骨が重なり合った路地の奥を探り回ったのだが、地獄に続く黴の生えた薄汚い階段を捜し当てただけだった。

骸骨が俺を呼んでいる。夜の向こうから、この世界にやって来て、さらに遠い夜の向こうの遥か彼方に連れ去ろうとして。

カタ、カタ、カタ。ケ、ケ、ケ、ケ、ケッ。ここには何もないよ。

空洞の宮殿に、生臭い風が吹いて行く。それは、昨日、捌いたチダイの内臓の臭いだ。俺の実現されない未来の臭いだ。

鎮座まします腰の王の竜骨の突端に釣り針を引っ掛けて、思い切り引っ張ってみた。

すると、真っ赤な神経が引き出されてグーッと伸びて来た。体液でギトギトと粘って湯気を上げている。

俺は、持っていたサバイバルナイフで、この神経を断ち切ろうとしたのだが、神経は驚いた目で俺を見つめ、次に嘲笑うような表情を浮かべたのだ。

切れるものなら切ってみろ、と。

痛みは倍増して、止まることがない。

腰の王は、さらに大きな笑い声を上げ続ける。

台所で、泡と具材を浮かべて煮立つ大鍋から黄色のカレーを皿の池に盛りつける。カレーの湯だまりから、ほおけた顔を出して俺は腰の王を飲み込もうとしたのだ。