小さなカレンダー

我が家のトイレには、小さなカレンダーがかかっている。私が昨年末に買ったカレンダーだ。

月めくりのカレンダーで、山の写真が載っている。日本国内の山だ。毎月、違った日本の山が現れる。だから、12回、いろいろな山の姿が楽しめる。

ただ、トイレにぶら下げてあるだけの写真だから、ぼんやりと見ていることが多い。というより、大概ぼんやりと見ている。いや、ほとんど見ていないこともある。

便座に座って、来し方行く末の我が人生のことを思い浮かべていることもあれば、さっき妻と口喧嘩をした後の残り火に水をかけている時もある。我が便秘の体質を嘆いている時もある。若い時は、すぐに出たのになあ、という具合にである。

だから、カレンダーの写真をほとんど覚えていない。1月がなんという山の写真であったか、2月が何だったか、全く思い出せない。山の姿自体が思い出せないのだから、名前など全く出てこない。

そんな憐れな我が家のトイレのカレンダーなのだが、今朝、ぼんやりと見ているうちに、だんだんと焦点が合って来て、瞬く間にはっきりとした映像を結んだ。

「あれ、これは日本の山か? 日本の山のカレンダーだったはずだけど、違ったかな?」

目の前には、スイスかオーストリアではないかと思われる山の裾野に広がる緑の風景が映し出されていた。裾野の向こうには、大きくて真っ白な山が聳え立っている。

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「なんだ、なんだ? 単独峰だから、日本の山じゃないよな。ちょっと、ちょっと!」

と、いささか興奮して、便座から腰を上げ、カレンダーの写真の右下に書かれている小さな文字を読んでみると、岩木山と書いてあった。

なんと岩木山であったのだ。

久しぶりで山の写真に感動した。

よし! この夏は、岩木山に行くぞ!