逃げる

ともかく逃げ出したいのだ。このこんがらがった状態から逃げ出して、もう少し心が穏やかでいられる場所に行きたいのだ。

昨日は、夕方、ジンビームを買いに走って、炭酸で割ってハイボールを作り、エイヒレを肴に飲み始めたのだが、何かがおかしかった。

奥さんが、夕飯は今日はカレーだよ、悪いね、と言いながら皿にカレーを盛ってくれる。市販のルーで作った簡単なカレーだ。変な組み合わせだけれど、エイヒレとカレーを同時に口に頰ばりながら、ハイボールを飲んでいく。

奥さんは、食卓の私の前で、自分の皿に盛ったカレーを食べながら、不味いカレーだわ、美味しいカレーが食べたいと呟く。

そんなことはないよと言いながら、私は、ドンドンとハイボールを飲んで行った。

その内に、なんだか気分が悪くなって来た。

息が荒くなって、目がくらみそうである。ご馳走さま、酒ももう飲めないや、と言いながら、食卓を離れ、ソファの上に横たわって目を瞑る。

心臓の鼓動が激しい。不整脈でも現れて、心臓がひっくり返ってしまうのではないかという不安が頭の中をよぎった。気持ちが悪いので水をください、と奥さんに頼む。ついでに布団も敷いてくれると助かります。

いつもより顔が赤いね。どうしたんだろう。疲れているのかな、と奥さんが乾いた声で言った。

俺は、もう寝るから。

ええ、そう。私は、ちょっと部屋に籠って練習をします。布団は敷きました。

というような奥さんの声を聞いている内に、ソファの上でウトウトとしてしまった。

ハッと目が覚めると、北側の和室から奥さんの練習の音がぼんやりと聞こえる。向こうの部屋にいるのだなあ、と思いながらソファから立ち上がり、布団に倒れ込むとそのまま意識が朦朧として寝てしまった。

 

朝になっても、外はまだ、雨が降っていて、風も強い。

有明防災公園は、遥か彼方だ。

テレビでは、TOKIOの山口がどうしたのこうしたの、メンバーの謝罪会見がどうのこうのと、朝っぱらからうるさい限り。

ハイボールが、いまだに体内に残っているはずもない。山口は、アル中だったのだろう。アル中は、断酒会や依存症の施設に入るしか方法がない。叔父がアル中で死んだ。40代半ばだった。どうにもしようがない。

天気は回復して来たけれど、都内は果てしなく遠く、どうにもこうにも防災公園にはたどり着けないでいる。葛根湯を口に含み、水で飲み込む。

気分が悪い。気持ちが悪い。こんがらがった頭の中で、どこかへ逃げることを考えている。どこか逃げる場所は?