女性化乳房

トンプよ、お前の飲んでいるクスリのせいだぜ。お前のオッパイが、このごろだんだんと膨らんで来て、乳首の先が痛くなったのは。

お前の、毛の生えたように力強い心臓が、脆くも傷ついて、こんな奇妙な名前のクスリを飲まなければならない羽目に陥ってしまったのは、不幸としか言いようがない。それにしても、「アナタノタメヨ」という名前はふざけ過ぎていないか。

このクスリの効能は、傷ついた心臓を優しく包み込んで癒してくれるところにあるらしい。しかし、そんな効能が現れたという証拠があるわけではない。

だいたいが、傷ついた剛毛の心臓を癒してくれるための、マウスでの実験など誰もしたことがないのだ。それに、マウスには、剛毛の心臓がない。

臨床研究も進んではいない。毛の生えたような心臓を持った臨床の被験者を探すのは、ほとんど不可能だったし、なおかつ、その心臓が痛ましいほど傷ついているかどうかなんて分かりっこなかったのだから。

そのせいで、クスリ「アナタノタメヨ」は、行き当たりばったりで処方されるしかなかった。

で、哀れなトンプが処方されて、毎日、黙々と決められた時間に決められた量の「アナタノタメヨ」を飲み続けたのだ。

その結果が、こうだ。

トンプの小さな乳房は次第に大きくなり、大きくなり続け、乳首の痛みはますます激しさを増し、最後には耐えきれなくなった。

医者に診てもらうと、大丈夫ですよ。ものには限度というものがありますから、そのうち治りますと言うだけだった。

ところが、医者の言に反して、トンプの巨大化した乳房は、狼狽えてオロオロしているトンプの傷ついた心臓を貫き、次に彼の混濁した脳みそを貫いて中空に飛び出してしまった。

 

何と乳房のあとには、ポッカリと深い穴が残った。取り残されたトンプは、その穴に向かってオーイ、と呼びかけた。

 

乳房は世界に繋がることができただろうか。