死者巡り

朝、台所で朝食を作っていると、隣のラジオからおそらく筋無力症のことについての解説をしているのだろう、その声が途切れ途切れに聞こえて来た。

すると、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で結局職場を退職せざるを得なくなってしまった同僚のYさんのことが思い出されて、さらに、これも同僚だったMさんのことが浮かんで来てしまった。Mさんは、数年前に北穂高岳から大キレットを下る途中で滑落し、亡くなってしまった。

二人と特に親しかったわけではないが、なんとなく気が合って、仕事中に一緒に怠けるのが得意であった。職場が同じだったのは15年も前のことだ。だから、進行性の難病だったYさんもお亡くなりになっているかも知れない。

すると、二人とも死んでしまったということだ。生き残っているのは、私だけということになる。

しみじみとした気分に浸っていると、何年か前に亡くなった叔父貴まで顔を出して来た。彼もALSだった。進行を食い止めるために、自分の舌を自分から希望して切除してしまった。十歳以上も歳上の叔母のことが心配で、叔母よりも長く生きていなければならないと考えていたからなのだろう。叔母が亡くなって、叔父貴も死んでしまった。

父親まで顔を出してくる。皇軍の兵士だった父親は、昭和天皇崩御する前に亡くなってしまった。67歳になったばかりだった。戦争にその青春を4年間も捧げたせいなのだろうと思う。葬儀には、工兵隊の生き残った仲間が15人ほど立ち会ってくれた。最後の仲間が亡くなるまで、見とっていくとのことだった。これも、もうどなたも御存命ではないだろう。

ダメだ、いくらでも死者が顔を出してくる。その内、自分も仲間入りをするのだろうが、まだ、もう少しこの世を味わっていたいので、このくらいで想念を断ち切ることにする。

おやッ、母が顔を出した。