松前の町の少年時代

夏、学校が終わると急いで家に帰り、そのままランドセルを放り投げると、海に向かって走り出していた。母親に見つかると面倒なので、帰ってきたことも告げずに海に向かった。

松前の浜は、松林がずっと重信川河口まで続いている白い砂浜だった。自転車をこいで、浜までの道を、くにち川に沿って駆けていくと、松林が途切れたとたん、目の前に浜が現れ、その向こうに瀬戸内海が輝いていた。

そばに夏場だけ海の家が営業していて、シャワーも使えるようになっていた。いつもおばさんが一人で番をしていた。

わんぱく小僧たちは、泳ぎ疲れて浜に上がると、唇を真っ青にしながら海の家で飴湯を飲み、冷えた体を温めたものだ。生姜の懐かしい味。海からの風が裸の体を撫でて行く。南の空には大きな入道雲が立ち上がっていた。

体力が回復すると、再び、雄叫びをあげて海へと飛び込んで行った。

夕陽が瀬戸内海の西の水平線の彼方に沈んで行くころまで、そして、潮が満ちて来て浜辺のすぐそばから、もう海に引き込まれそうに深くなるまで、遊び呆けてから、やっと、子供たちは浜をあとにした。その後ろでは、浜に寄せては返す波が、ザブーン、ザブーンと音を立てていたものだ。