ゴッホ
高校生のころ、やたらと絵描きになりたいと思った時期があった。
中学の時の美術の教科書に載っていたゴッホの絵の記憶が大きく膨らんで、いつしか高校生のわたし心のすべてを占領することになってしまったのだろう。
その時見た絵が何だったのか調べてみると、『the harvest(収穫)』という作品だったことが分かった。絵の前方に垣根があって、その後ろには摘み取り作業をしている女性らしき人物、その向こうに青い荷車が置かれている。さらにその向こうには、収穫期の大麦畑が遥かに広がっていて、オレンジ色の屋根をした農家が点在し、何人かの人たちが農作業をしている。遠くには山が描かれていて、その上に空が広がっているという絵だ。
わたしは油絵の道具を購入し、絵を描き始めた。木炭デッサンもした。
イーゼルや木炭、絵の具、アグリッパの石膏像、画布や木枠、ペトロール、絵筆などを買いに、京都の画材店に出入りした。
国立近代美術館の展覧会にもよく足を運んだ。
美術部の友人の紹介で、S大学の美術の教授の家をお邪魔して、自分の描いた絵を見てもらったりもした。わたしが持参した何点かの絵を見て、教授は、君は彫刻が適しているから彫刻をやりたまえと宣わった。
わたしは二度と教授の家を訪問しなかった。
絵を描くことへの情熱は、いつ冷めてしまったのか分からない。ゴッホに憧れてはいたが、油絵を描くテンポと若いわたしのテンポはシンクロしなかったようだ。
急に遠い昔のことを思い出した。