朝風呂

どうも体が冷たいので、風呂に入ろうと思った。頭の中で蝿がブンブン飛び回っている。この不快さをどうにかしなければ、1日が始まらない。

頭を押さえながら冷たい煎餅布団から這い出した。窓に朝の光が淡く差している。今日も冬晴れの上天気なのだろう。

よろけながら浴室に向かう。パジャマを脱ぐと、洗面所の冷気が皮膚に突き刺さった。ぶるっと震えがくる。

湯船に手を入れると、まだ微温い。体に湯をかける。生ぬるいじゃないか。仕方ねーな。

ブツブツ言いながら男は湯船に入った。多少微温いけれど、追い炊きで次第に温かくなってくるはずだ。そう思いながら、手足を思う限り伸ばした。

体が徐々に温まってくる。湯船の中で顔を洗う。少し目がさめる。頭の中に飛び回っていた蝿の騒音が消えてなくなって行く。

湯もだんだんと熱くなってきた。それと同時に、頭がボーッとしてくる。すると、おかしな妄想が頭の中に湧き上がってきた。

湯の中で自分がだんだん小さくなって行く。そのうち、マメ粒のようになって溶け出した。溶けて湯の中の水の分子に紛れ込み、ずっと泳いで行く。これは、どうしたんだ、と驚いていると、誰かが呼んでいる。見ると奇怪な小人がいて自分を呼んでいる。いいぞ、、こっちは、いいぞ。早くおいでよ。そんなふうに聞こえる。

おや、体がだいぶん温まってきたようだ。ああ、浮力のせいで重力がなくなって行く。天国天国‥‥‥。

いつまでたっても男が風呂から上がってこないので、不思議に思った奥さんが風呂場の扉を開けて中をのぞいた。 どうしたんでしょう、誰もいないわ。